伝言の連鎖 <必殺技>

「必殺技」なんて、ふざけたタイトルで、申し訳ありません。

 

内容は至って、真面目です。 

 

武内が若い頃、師匠から言われ続けた言葉に、 

 

「誰にも負けない事を、ひとつ身につけろ」 

 

・・・と言う言葉が有りました。 

 

それは、魚の仕事でも、煮物の仕事でも、もっと限定して何か季節的な一品でも良くて、この仕事をやらせたら、誰にも負けない、そんな仕事を一つ作れ、と言う事でありました。

 

 

若い頃は、それこそ、包丁の仕事に燃えていましたから、自分の生きる道は、包丁を扱わせたら1番になること、そう決めていました。

  

特にスピードに関しては、同世代の人間が多くいたので、良い環境で切磋琢磨できたことは非常に幸運でした。

  

しかし、厨房の中でのポジション換えで煮物の仕事に回されて一気に興味は煮物へと移りました。

 

 与えられた環境を楽しんでしまうのは、昔からだった様で、よりピュアな旨味の料理、段取り良く、クールに仕事をこなす先輩の仕事には大いに刺激を頂いて、煮物の仕事に没頭しました。 

 

 

元々、高校時代に受けた職業適性検査では向いてない職業がない、また中学・高校とやっていたバレーボールでもマルチプレーヤーとしてレフト、センター、ライトのポジションをやっていた経験から、色々な事を同時にやるのは苦ではなく、むしろ楽しいタイプでして。

 

 

 ですが、その分、器用貧乏と評される事もあるぐらい、気が多いことが短所の武内です。

 

 

全てが中途半端でそこそこ出来る・・と言うのは、実は何もできないのと変わりありません。

  

師匠の、「何か一つ」と言う教えを、当時は理解していたつもりでも全く身になっていませんでした。

 

 今になって、「何か一つ」と言える事が、あるのかと自問自答すると、未だに即答は出来ません。

  

 

やはり魚の仕事、特に扱いから使い方、には本当に多くの事を教えて頂いたので、自信のある所ですが、それにも上には上がいますし、当時の師匠や先輩方に匹敵する仕事が出来ているかと言うと、疑問も残ります。 

 

煮物に関しては、土佐の郷土料理に関しては、長く接していた分、東京人としては、トップクラスでしょうが、東京人の仕立てる土佐の郷土料理と言うカテゴリー自体、存在意義があるのかと言う所ですし(笑

 

田舎のお婆さんが作るような、蕗の葉の佃煮や、楽京の辛煮、伽羅蕗、ジャコと大根の葉の煮物などなど、競争力の全く無い料理が、武内の持ち味かもしれません。

 

 

そう考えると、流行の料理とは無縁のところで、基本を踏まえた、地に足が着いた料理を目指しつつ揺れる状況の中で、そのクォリティを維持する事こそ、最大の課題です。 

 

さてさて、必殺技と言うタイトルで書きましたが、武内としては料理人の人生の中で大きく役に立った技、それは穴子と鰻です。

  

今となっては、鰻なんか1年のうちで数本しか触らないので、全く自信はありませんが、それでも若い頃から必死になって習得した技術なので、いつでも割ける気概はあります。

 

穴子に関しては、今まで接してきた職人の中ではスピード、クオリティ共に引けをとった人間はいませんでした。 

 

と言うことで、坐唯杏の一品の中では穴子の料理は、大きな魅力のひとつです。

 

自分にとって、大きな魅力となる必殺技の習得、かつて師匠から言われた様に、武内も若い人間には必ず伝える言葉となっています。