土壇場の美学 <奥さんが乳がんになった時>

修行時代の話です。

 

武内の師匠の奥様が乳がんに罹りました。

 

普段は決して弱いところを見せない、それは気丈な奥様でしたし、武内の師匠も、それは強いお方でしたが初めて見る不安なご様子、

 

そして初めて聞く、愚痴を耳にしました。

 

この歳になりますと、知人・友人の中にも鬼籍に入られる方がおります。

 

人間として生を受けた瞬間から、必ず到達するのは「死」です。

 

最初から分かっている、この運命からは誰も逃げる事はできません。

 

でも、その運命を受け入れるのには誰しも、強い恐怖と闘わなければならない。

 

師匠の、その後は実に人間として、男として尊敬すべきものでした。

 

 

 

僅かな期間で、精神的な回復をなされて我々の支えなどは全く必要のない頑強な人へ戻られたのが、強く記憶に焼き付いております。

 

そして昨日、やはりオジキの奥様も乳がんを患われたとの事。

 

その時の、奥様に仰ったオジキのお言葉が身に沁みます。

 

「おまえ、もう少し若い時なら新しい嫁さんも貰えたし、女も出来たろうにこの歳になったら、無理ぜよ。

 

どんな事をしても生き残れ。」

 

あの方、特有の愛の表現に感嘆しました。

 

もちろん、お二方の奥様はご存命で、元気に暮らしてらっしゃるとの事。

 

天才的な職人だったお二人。

 

師事できた事が光栄に思える、お二方のお話でした。