幼らよろこぶ「すずな」 <蕪のお話>

「すずな」とは「蕪(かぶ)」のことです。

 

一説によれば、温帯ヨーロッパが原産地という事でヨーロッパの海岸地方には野生状態のものがあると言います。

 

もっともこれには異論があり、西アジア、とりわけアフガニスタンを中心にした地方が原産地で、それが西及び南ヨーロッパに伝わったとも言われていまして、はっきりした所は未だに不明です。

 

いずれにしても紀元前からヨーロッパではすでに栽培されていたと言う事。

 

初めは菜種に近いもので、その後地下の蕪が肥大するものへと改良されました。

 

 

 

 

その分布はヨーロッパ全域、ロシア、小アジアからイラン、アフガニスタン、インド及び中国の雲南、四川などで多く栽培され、華中にも至っているが、華北、華南には見られません。

 

アメリカ大陸へは1540年に初期の移民が種子をもたらしたと言われています。

 

日本には中国経由のアジア型と、ヨーロッパから朝鮮半島を経て伝わったヨーロッパ型がありまして、福井、岐阜、愛知の各県を境に西日本はアジア型、東日本はヨーロッパ型が分布しています。

 

日本でもかなり古くから栽培されていて、「くくたち、かぶら、あこな、あおな」などと呼ばれました。

 

もっとも古い重要な野菜とされ、また「すずな」として春の七草の一つにも数えられていたのは、ご存知のとおりです。

 

地方ごとに特色のある蕪

 

蕪は食用として極めて重宝な疏菜であるため、かなり古くから全国的に知られ、地方ごとに特色のあるものが生まれています。

 

 

 

 

ざっと数え上げるだけでも、福島の館岩蕪、新潟の寄居蕪、金沢青蕪、福井の河内赤蕪、飛騨紅蕪、聖護院蕪、島根の津田蕪、愛媛の伊予緋蕪、と実に多彩です。

 

中でも金沢青蕪は、青丸首種の大蕪で、金沢地方の正月料理である「かぶらずし」の材料として欠かすことの出来ない野菜です。

 

この料理は、十一月上旬に塩蔵しておいた金沢青蕪を下旬に取り出して輪切りにし、鰤の切り身を挟んで麹、昆布、人参、唐辛子を加えて本漬けしたもの。

 

また飛騨紅蕪は、実に鮮やかな緋紅色をした扁平の蕪で、江戸時代は高山御役所の御用蕪として指定され、遠路はるばる汗戸表まで届けられたとの事。

 

聖護院蕪は聖護院大根と同様に、京都・聖護院町の特産物で、近江蕪から変形したもので、肉質が緻密で、千枚漬けの原科として知られています。

 

同じ京都の上賀茂一帯でとれる酸茎(すぐき)菜は、京都の名物漬け物、すぐき漬けの材料として有名ですが、・・・この野菜は蕪と大根の合いの子だとも言われています。

 

 

 

 

七草には薬効の意味も含まれていたので、蕪の栄養価も古代より広く知られていたのでした。

 

冬畑の蕪を入れたる味噌汁の甘く柔らに幼らよろこぶ   窪田章一郎

 

十種の味噌汁を詠んだ「味噌汁」の中の作、歌集「ちまたの響」より。