とんでもないシンプル <棒鱈の煮物>

棒鱈は、いまや高級品です。

 

大きなものでもありますが、1枚仕入れるのに必ず1万円以上は要します。

 

それでも、一度・・この味わいの虜になると、この煮物がないと寂しい。

 

ある種の中毒性がある素材かもしれません (笑 

 

早速、その仕立て方をお伝えしましょう。

 

まずは米のとぎ汁に漬けて戻します。

 

その品にもよりますが、多くの場合は1週間以上の戻し時間が必要です。

 

 

米のとぎ汁には旨味を閉じ込め、臭みを抜く二つの効果があります。

 

大きな素材なので、最初にのこぎりで切ってしまいコンパクトに漬ける、そんな仕込み方もありますが、我々は大きな容器でそのまま行きます。

 

と言うのは、やはり高価な素材なので少しでも無駄をなくすためです。

 

切り屑や、卸すときの無駄を考えたら、やすやすとのこぎりは入れられません。

 

大きな容器に、たっぷりの米のとぎ汁を注ぎ、棒鱈を漬けます。

 

この時、絶対に顔を出さないように重石を上に乗せて沈めておきます。

 

少しでも空気に触れている所があると、そこから嫌な匂いが出てきます。

 

そして、毎日・毎日、米のとぎ汁を交換しながら、その都度水洗いをして出てきたぬめりや、沈殿した糠を洗い流します。

 

そうしてケアしながら、指で押してみて芯まで十分に戻った所で鰭を落としカマを外しながら、三枚に卸します。

 

 

カマや鰭の所に付いている身も、きっちりとむしり取って残しておきます。

 

身の良い部分だけを、まずは小角に切りつけます。

 

武内は、やや小ぶり・・食べやすい大きさには絶対に譲れない気持ちがあるので

2cm角ほどの立方体を目指します。

 

そして残った、薄い部分や端の部分を集めて、薄い部分で巻いてタコ糸で留めます。

 

以前は竹の皮で留めていましたが、タコ糸のほうが断然早いので、替えました。

 

ただし、タコ糸だと細いので、きつく巻くと形が悪くなります。

 

力の加減が重要です。

 

むしり取った端の身を、薄い部分で巻き終わったら、小角に切った良い部分もタコ糸で十文字に留めます。

 

煮崩れを完全に防ぐための、下準備です。

 

そこまで終わったら、火を入れます。

 

糸を掛けた棒鱈を鍋に並べて、米のとぎ汁を注ぎます。

 

 

そして火にかけて、23時間・・灰汁を引きながらコトコトと茹でます。

 

とぎ汁が減ってきたら、足すことも忘れずにたっぷりのとぎ汁の中で静かに、静かに茹でます。

 

そして、そのまま火を止めて翌日まで置きます。

 

その後、また水で洗い流し、糸の外れているものなどを点検しつつ、笊に上げて水を切ります。

 

この工程を3回ほど繰り返し、最後に水を十分に切ったら、また鍋に並べて出汁と酒を1121ぐらいに合わせた煮汁を注ぎ、昆布で蓋をします。

 

落し蓋の代わりに昆布を使う、贅沢な仕事ですが鰹蓋と並んで、和食の仕事の中には、ここ1番の時には頻繁に使われる手法です。

 

隙間無く並べた昆布の蓋の下で、ゆっくりと火を入れて2~3時間掛けてじっくり煮汁と馴染ませてから砂糖を加えます。

 

このときの砂糖も、何回かに分けて加えるようにします。

 

一気に味を入れると浸透圧で、また身が締まってしまう事があるので注意が必要です。

 

その後、また3時間以上掛けて、ゆっくりと甘味を含ませたら薄口醤油を、

本当に少量ずつ加えていきます。

 

最初の砂糖とバランスの取れるまで、薄口醤油を加えるのですが、毎年・・

おそらく十数回に渡って醤油を加えています。

 

途中、昆布の蓋を新しいものに取り替えたりしつつ、ゆっくりゆっくりと

味を入れる。

 

この時には、絶対に味醂は使いません。

 

せっかく柔らかく戻った身が締まった感じになるからです。

 

酒と砂糖、薄口醤油・・この組み合わせだけで味を入れます。

 

一つ一つの仕事は、とてもシンプルで、難しい仕事ではありませんが、
根気と細部に至るまでの神経の遣い方が、この仕事の全てです。

 

そして、それだけの価値のある出来栄えになるのが、励みになる仕事でもあります。