秋刀魚の歌・句

日本の秋刀魚漁の発祥の地は、和歌山県と言われています。

 

少し意外な感じがしますが、有名な「秋刀魚の歌」を残した佐藤春夫さんは紀伊の出身との事です。

 

さんま、さんま、

そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせて

さんまを喰ふは

 

その男がふる里のならひなり

 

・・と余すところなく、秋刀魚の食べ方や味わいが描写されているのが、大きな魅力の詩です。

 

 

 

そして、短歌にも。

 

食べ物の歌の多さでは斉藤茂吉さんと並ぶ、土屋文明さんの歌。

 

人々の箸つけぬサンマの煮肴も

われにはたのし 石巻に来つ

 

旅先の宴席で、地元の人には全く魅力を感じさせない煮た秋刀魚を

旅人である土屋さんが愛でた歌です。 

 

また、木俣修さんの歌。

 

秋刀魚やきて夕がれひ食す硝子戸に

時雨は降りぬ 白く光りて

 

「夕がれひ」は夕食の意味。

 

 

秋から冬へと移り行く季節の歌です。

 

この頃には秋刀魚の脂も充分に乗り切って、家々では抜群に美味しい秋刀魚の塩焼きを食べていた事と想像されます。

 

続いて俳句。

 

秋刀魚焼く匂の底へ日は落ちぬ  加藤楸邨

道玄坂さんま出る頃の夕空ぞ   久米三汀

 

秋刀魚の食べごろとなる季節には、まだ夕暮れ時には明るかったりします。

 

夕映えの空、夕暮れ時の美しさと秋刀魚の季節を重ねた二句です。

 

秋刀魚という魚は料理も味も複雑ではなく、気取りもなく、誰にも親しみやすく、そして手軽に手に入る。

 

秋の代表的な素材で、生活に密着した庶民の食べ物。

 

だけに、悲喜こもごもの人生が投影される魚かと。