鴨豆腐のお話

鴨肉は鶏と違い、モモ肉よりも胸肉が発達しています。

 

というのは地上にいる時間が長い鶏よりも、羽が発達している

鴨の生態を考えれば納得の理由です。

 

鴨の胸肉を鴨ロースと呼ぶのも、そんな理由から。

 

鴨の抱き身とも呼びます。

 

その鴨肉、扱う時の注意点といえば、まず第一に火の入れ具合、

そして血抜きと、硬さが残る筋肉の膜です。

 

鶏よりも厚い皮と筋肉の間に、膜がありまして・・

そこにきっちりと切れ目を入れたり、穴を開けたりして食感を

良くする事が、まず第一の仕事です。

 

皮目から縦に何本も包丁目を入れる。

 

 

決して、あの包丁目は飾りではなく、そんな意味があるので皮目と筋肉の間の膜に届く深さで切れ目を入れなくては意味がありません。

 

ジャガードという穴を開ける道具で丹念に刺して置くのもこの筋膜に小さな傷を沢山つけておくことが目的ですから、単に味が沁みやすいとかの理由ではない事を理解する必要があります。

 

そして下処理の終わった鴨肉を、油を引いていないフライパンで皮目だけ煎り付けます。

 

これは余分な脂を落とす為です。

 

もちろん、掃除する時に脂身は除きますが、皮目の余分な脂は食味を悪くするので焼き溶かして鴨肉から除く様にします。

 

 

そして火の通り過ぎを防ぎ、余分な脂を流す為に水に落とし、今度は血抜きに掛かります。

 

鴨の中には窒息させて〆て、故意に身の中に血を残す方法もありますが、和食の古典的な考え方だと血の残りが雑味になると言われていました。

 

金串に射して、吊るして暫く置きます。

 

鴨肉から血が、滴り落ちきった頃合を見極めて火入れに掛かります。

 

この仕事が、鴨肉を扱う上での1番の見せ場です。

 

古典的な手法では、煮汁を仕立てて置いて沸かした所に鴨肉を沈めては引き上げるという動作を繰り返します。

 

鰹節や昆布、乾燥椎茸に屑野菜・・生姜の皮や葱の青い所、人参や

牛蒡の端切れ、場合によってはパセリの軸や、セロリの葉などを

煮出した両味の煮汁です。

 

イメージとしては蕎麦ツユ程度の濃度の煮汁に、香味野菜、旨味を

補充した煮汁を想像して下さい。

 

その煮汁を沸かして、鴨肉を放り込んだら再度煮立つぐらい、そして

じわっと火が入る頃合を見計らって、引き上げます。

 

そして、しばし放置して冷ましたら、また沸かした煮汁に投入し

じわっと火を入れる。

 

この繰り返しで、火は通っているけれど生の食感が残る。

 

生の色合い、ロゼの色合いに仕上げつつ中心まで熱を伝えます。

 

現在の真空調理のレシピでは○○℃で○○分と言う具合に、きっちりと

数値化されていますが、その昔は沸かした煮汁に漬けて蒸し器に入れ、

○分と言う具合の、簡単化されたレシピを多用する職人が多かった仕事です。

 

とは言え、古典的な手法としては、この繰り返し火を入れるのが

主流でした。

 

どちらを選ぶかは、職人のセンスです。

 

そして頃合のところまで火が入ったら、煮汁の味を調えて漉し、

漬け込んで味を入れます。

 

この漉した煮汁を使って豆腐を炊き、煮含めておきます。

 

そして提供の時点で鴨と豆腐を温めて、更に煮汁の味を調えなおして、

吸える位の濃度にしたらたっぷりと張って天に辛子というのが、

オーソドックスな仕立て方でしょうか。

 

・・・と、細々としたレシピをお伝えしましたが、実はこの料理。

 

もっとざっくりとした料理が本道です。

 

例えば玉葱を敷いて豆腐を乗せた土鍋の中で、空焚きして余分な水を

落としたら、出てきた水を捨てて煮汁と鴨肉を加えてひと煮立ち。

 

そんなレシピでお楽しみ頂くには、むしろ鴨肉よりも鶏肉の方が

たやすく、そして旨いのかもしれません。