蕪蒸し

もう20年近くも昔のお話、さる老夫婦が当時の坐唯杏、「割烹・坐唯杏」にご来店なされ、オススメの一品を所望されたので「蕪蒸し」をお出ししました。

 

いたく感動なさって、心からのお褒めの言葉を頂戴したのですが、その一言・・

 

「素晴らしい創作料理ですね」 との事。

 

そのときに武内が仕立てたのは、伝統的な仕立て方での「蕪蒸し」。

 

こんな年配の方たちでも、蕪蒸しという一品を経験された事が無かったのかと、驚きの出来事でした。

 

以来、こういう一品こそ、もっと多くの方に楽しんで頂かなくてはいけないという使命感を持って取り組む料理だと確信しています

 

 

 さて、その仕立て方ですがメインになる食材は、白身の魚・・特に鯛の様なきっちりと素材の旨味をもった身質で、しかも食感が柔らかい物が合います。

 

 

 

場合によっては穴子や鰻などで仕立てることもありますし、鶏肉で仕立てる事もありますが、蕪のふわっとした、消え入る様な儚い食感と調和するものが良いです。

 

 

 

だから鶏肉などを使う時は、叩き寄せと言う挽肉をふわっと固めた仕立て方をすると、その真価が堪能出来ます。

 

 

 

さて鯛の切り身は、器の大きさに合わせて切り身にします。

 

 

 

薄い塩を当てておくほうが旨味が広がります。

 

 

 

 

また、塩を当てずとも湯通しして鱗などを除いたあと、酒と塩の酒塩に漬けて

下味をつける方法もあります。

 

一般的には薄塩を当てます。

 

30分ほど置いたら、湯通しして水気を押さえたら器に据えます。

 

この間に、蕪をおろして置きます。

 

先ほども書きました通り、この料理の生命線は蕪の食感です。

 

このおろし方で、完成度が決まります。

 

おろし金に皮を剥いた蕪を垂直に当てて、なるべく力を入れない様にゆっくりと優しく、細かい蕪おろしを作ります。

 

 

とにかく、この作業を優しく・優しく取り組んでください。

 

それが出来たら、この料理の成功は80%は約束された様なものです。

 

その蕪おろしの水気を軽く押さえて、卵白・片栗粉・僅かな塩を加えます。

 

卵白は、職人によってはそのまま混ぜ込む人間も多いですが、優しく儚い食感に仕立てるには淡雪状、つまりメレンゲにしておく事をオススメします。

 

空気を含んだ卵白が潰れない様に、さっくりと蕪お

ろしと混ぜ合わせます。

 

片栗粉も使いますが、これもほんの少々でかまいま

せん。

 

繋ぎを入れすぎると、モチモチした食感が出てきます。

 

その食感は不要です。

 

そして、先ほどの鯛に蕪おろしを綺麗に整えて乗せて、

蒸し器で15分ほど蒸します。

 

逆に言えば、15分ほどで芯まで火が入る切り身にして

おく事を逆算して切り身の大きさを決めたら分かりやす

いですね。

 

さて蒸している間に餡を作ります。

 

蕪蒸しの餡は、職人によって鼈甲(ベッコウ)餡と銀餡

(ギンアン)を、使い分けます。

 

真冬の寒い頃、とろみも強めに利かせた鼈甲餡も良く

合いますし、仄かな色合いの銀餡も蕪の白さが映えて

美しいです。

 

いずれにしても、味醂と醤油を同割り、出汁を48くら

いの割合で仕立てますが、中間ぐらいの割合、銀餡で

お伝えしましょう。

 

出汁は6.5、味醂1、薄口醤油1で仕立てます。

 

まずは味醂を煮切ってアルコールを飛ばします。

 

薄口醤油と出汁を加えたら、火に掛けて沸く瞬間に鰹

節を加えて漉します。

 

この出汁を再度、火に掛けて葛でとろみを掛けます。

 

古いレシピでは、蕪蒸しにはとろみの強い餡を仕立てる

事が多いのですが最近の傾向としては、薄葛餡に仕立

てる事も増えています。

 

 

麻婆豆腐や八宝菜などのとろみの掛け具合と同じで良いでしょう。

 

この餡を蒸しあがった鯛と蕪に半分ほど漬かるまで掛けてください。

 

そして最後に山葵(ワサビ)を天盛にして、お好みで柚子を載せたり贅沢に仕立てるなら、バチコの軽く炙ったものを霰に包丁して散らしてやると最高の風味が楽しめます。

 

彩として、菊菜や青菜を茹でて下味をつけたものを添えると、バランスが良いです。

 

後は熱々のまま、召し上がるだけです。

 

我々が仕事として仕立てる時は、綺麗に体裁を整え

た蕪おろしに仕上げますが、ご家庭で仕立てるなら

器の中にふわっと注いだ感じでも、全然遜色はありません。

 

場合によっては我々でも、そういう仕立て方を故意に

する時もあります。

 

鯛の切り身と蕪おろしを同時に口の中に入れて、消え

入るような儚い蕪の食感を、どうぞ存分にお楽しみくだ

さい。