鴨ロース煮

鴨という鳥は、地表で生活する事はありませんから羽が発達する。

 

羽が発達すると胸の筋肉が発達すると言う事で、鴨の胸肉を食材に対する敬意から鴨ロースと呼んだりします。

 

鶏の胸肉でも同じですが、実はこの鴨ロース・・・とても難しい食材です。

 

しっとりと優しく熱を入れつつ、味を入れて、しかも火が通っていながら生の食感を残す。

 

もう何が何だか分からなくなる様な説明ですが、目指すのはロゼの色合いと鴨肉らしい、ジューシーで豊富な旨味です。

 

 

 

 

 

それを実現させる為に、日本料理の世界では数々の手法が編み出されてきましたがその根源にある手法は、とてもシンプルです。 

 

天つゆに砂糖を加えた様な味わいの出汁を仕立てておいて、沸いた所へ下処理した鴨肉を放り込み、ぐらぐらっと沸かしつつ少し火を入れえた所で引き上げる。 

 

この工程を、何回かに分けて行います。 

 

出汁の旨味を吸わせつつ、火が入りそうになったら出汁から上げるので熱が内部には優しく浸透します。 

 

そして冷めてきたら、また出汁に入れられ加熱されるので段階的に優しい加熱が生の食感を残した、火の入った肉を実現させるわけです。 

 

そして、最後に冷ました出汁に漬け込むことでしっかりと味を乗せる。

 

 

この手法が、古くから日本料理の世界で伝えられてきた技法です。 

 

その技法も、今では殆ど使う職人がおりません。

 

若い者の中には、こんな手法が存在した事も知らない者も多いかも

しれません。 

 

と言うのは、スチームコンベクションや真空調理と言う新しい技法が発達して

きたので、パターンだけを決めて、きっちりと温度管理すれば経験の浅い者でも

古い技法を駆使したかの様な、素晴らしい仕上がりが実現出来る様になったからです。 

 

芯温計で鴨ロースの内部の温度を管理しつつ、決められた温度、決められた時間で

機器を操作できれば、入ったばかりのアルバイトでも鴨のロース煮が作れる。

 

 

これは画期的な事でした。 

 

こう言う機器の発達がもたらした物は、決して文化の後退ではありません。 

 

我々の世代でも、炊飯器やミキサー、電子レンジに始まって、フードプロセッサーや

コンベクションオーブン、スチームコンベクションオーブンと進化に沿って仕事は

早く綺麗に、かつ楽になりましたが、 

 

決して過去の苦労を忘れることなく、さらに新しい工夫や手法を取り入れ、次世代に

繋がる料理を、生み出して来たと言う実績があります。 

 

この鴨のロース煮に関しても、同じ事が言えて。

 

 

伝統一辺倒の仕上げよりも、現在の職人によって様々な仕上げ方や仕立て方が発達して

来た事を考えると、実に喜ばしい事と理解しています。 

 

ただし、そこで求められるのは、「温故知新」の精神でもあります。 

 

古きを訪ねて新しきを知る事、原点に立ち返って、今を生きる事です。

 

 

変化の波に乗りながらも、守るべき伝統や文化を大切にする。 

 

鴨のロース煮は、そんな料理の代表格です。 

 

大きなスーパーや、専門の食材店には鴨ロースを見かける事もあるかと思います。 

 

1度、原点の調理法で挑戦してみては、いかがでしょう。

 

 

※鴨料理には夏鴨と冬鴨があります。なので、夏の一品集と冬の一品集に入っています。