豪快・天丼  ¥900

武内が厨房の世界に入って、最初に就いたポジション。


それは、追い回しと言われる何でも屋です。


厳しいところ、厨房の人数が多い古い店だと洗い場から始める店が

殆どでしたが、武内がこの世界に入る頃から徐々に変わってきました。


料理人になろうと言う若い人間が少なくなったのです。


我々より年上の時代には、募集をすればどんどん人が集まりました。


地方に募集をかけて、東京の寮に住まわせる・・・と言う手法で労働単価の低い働き手がどんどん集まった時代です。

 



 それから、徐々に様相は変わり人が集まらない、集まってもすぐに辞める、そんな時代へと移っていきます。

 

 武内の頃も、もちろん洗物はしましたが、専門職という訳ではなく

厨房の雑用係として、スタートしたのです。

 

 その雑用係、追い回しで最初の試練が丼物の飯盛でした。

 

 厳密には、鰻重の飯盛りが主だったのですが、盛り方が悪いと突返されて盛りなおし。

 

 

正直言って、訳も分からずに言われたままに指示通りの盛り方をする。

 

 

駆け出しの頃は、ただそれだけだった様に思います。

 

 ところが、自分で鰻を焼いて重箱に盛られた飯の上に鰻を置くようになって意識が変わりました。

  

飯の盛り方が悪いと、鰻を置いても決まらない。

 

 それどころか、せっかくの鰻重が不味くなる。

 

 ・・と言うのは、飯を盛ってタレを掛けるまでが飯盛りの仕事でしたから、小さな四角い柄杓のようなところから、三つの口が出ている専用の道具を使うのですが、このタレ掛けの使い方、タレの掛け方しだいで味わいがガラっと変わります。

 

 

タレの色が、重箱の底の方の飯までしっかりと届いているけど、決してタレが

底に溜まらない量。

 

 

これがやってみると、極めて難しい仕事なのです。

 

 

しかも時代は、バブルが始まる好景気の時代。

 

 

お客様はなだれの様に押し寄せる時代でしたから、スピードも要求されます。

 

 

早く、しかも正確に、そして美しく・・・

 

 

言われたままに盛り付けていた頃から、その上に鰻を置くようになる頃。

 

 

意識が激変したのを覚えています。

 

 

飯はあくまでも押し付けず、ふわっと盛り付けて・・

しかも、器の内側の1番、美しく見える量を横真一文字に飯の縁の線が揃う様、

やや船底を意識するぐらいに、自然と真ん中が凹む盛り方。

 

 

そして飯の量に合わせてタレの量を、最初に調整しタレ掛けを動かさずに

飯のほうを動かして、上から見ると隅々までタレの色が染みるように、そして更に

どんぶりの底にタレが溜まる事など無いように、飯を盛ります。

 

 

これは鰻の時にも、厳しく指導されましたが天丼も同じです。

 

 

タレをくぐらせたてんぷらが乗っていない所もタレの色が染みてなければいけません。

 

 

白いご飯が見えてはダメです。

 

 

そして鰻の時よりも若干少なめのタレを掛けて、タレをくぐらせた天ぷらを

上に乗せます。

 

 

炊き立ての熱々の飯だと、飯がタレを吸うのでやりやすくなります。

 

 

しかも粒が立っている様な、一粒ずつがしっかりと炊けた飯だと余計に調子が良い。

 

 

盛り方・・だけの話ではなく、実は全部繋がっているのです。

 

 

そして一箇所でも、抜けがあれば全体に響く。

 

 

これがチームで作る料理の面白さ、難しさです。

 

 

 


以前にもお伝えしましたが、洗練された都会の味わいと田舎の

味わいには、差があります。


辛口のきりっとした味わいは都会の味。


甘口のしつこい味わいだと田舎の味。


これは鰻屋時代に培った感性でして、田舎に行けば行くほど

鰻のタレは甘くなります。


天丼も同じで、やや薄く感じるぐらいの醤油が勝った、きりっと

した味わいは地方では、あまり遭遇しません。



坐唯杏の天丼のタレ、通称「丼タレ」も、割合きりっとした味わいを

目指しています。



しかし、こういうタレ、ややもすると旨味の乏しい割り醤油みたいな

味わいに感じてしまう事もあります。


では、どうするか。


追い足し・追い足しで旨味の濃厚なさらっとしたタレを目指すんですね。



時たま、穴子の頭や骨を焼いて、火を入れるときに突っ込んで、

更に旨味を補います。


追い足すのは天ツユぐらいの薄さの出汁です。



普通なら元タレと呼ばれる、調味料だけ火を入れて寝かして

置いた物を、付けタレと呼ばれる所に足しては火を入れる、と言う事も

よく使われる手法です。



天ツユって、毎日作っては、余ったら捨てる・・・


けっこう、もったいない使い方をしている所が多いと思います。



元は鰹の濃厚な出汁を使って仕立てるものですから、旨味も調味料も

そのまま使えるのです。


坐唯杏では、天ツユを追い足して丼タレに回しています。


これは、丸の内の割烹に勤めていた頃の親方の仕事です。


今から、30年以上も昔の話になってしまいましたが・・



もし、ご家庭でも天丼を作ると言う機会がありましたら、砂糖は

控えて、やや薄いかな・ぐらいの醤油味のきりっとした味わいのタレを

仕立てるのをお薦めします。



バランスは、やや難しいかも知れませんが、慣れると案外、上手く

作れてしまうと思います。


では、タレのお話を中心に天丼の話題をお届けしました。


 

 


さつま芋の天ぷら <揚げる順>

天ぷらを揚げる時に、我々の様な商売だと、1人前に海老や野菜を組み合わせて、丁度良く全部が同時に揚がる様にネタを油の中に入れます。



その時に、最初に入れるのがさつま芋です。


やや低めの温度から、じっくりと時間をかけて揚げます。


最初に油の中に入れて、、そして最後に引き上げる。


そんなタイミングです。


さつま芋を入れて、他の茄子、南瓜や蓮根を入れ、最後に海老を入れ花を咲かせたら・・


油の中に海老を入れて、形のまま衣揚げにした物を棒揚げと言います。


それに対して、衣を散らしつつ天ぷらの周囲に花が咲いた様に付けて揚げるのを

「花を咲かせる」と言いまして・・・


セコイ様ですが、海老を大きく見せる事と食感を良くするのが目的です。


海老には、こんな仕事をしますから油の中に入れる時に、他の物より少しだけ

手間が掛かります。



そして海老を入れ終わって、海老の中心がまだ半生ぐらいの時に、一斉に

引き上げます。


順番は海老、茄子、南瓜、蓮根、そしてさつま芋です。


じっくりと加熱されたさつま芋には甘味が出ます。


普通に焼いたさつま芋よりも、石焼芋の方が甘く感じます。


じっくりと加熱された効果です。


他には、電子レンジで加熱したさつま芋よりも、蒸し器で時間をかけて

ゆっくりと蒸し上げたさつま芋の方が甘く感じるのも、この効果です。



と言う事で、ご家庭では一種類のネタを何個もいっぺんに揚げていくと

思いますが、さつま芋の時だけは、時間的な感覚を長めに取って、

やや低めの温度から、じっくりと揚げる。


そして、最後に油の温度を少し高めてカラっと揚げ切る事を考えたら、

さつま芋が1番美味しく食べられる揚げ方です。


さつま芋の天ぷらを、1番美味しく揚げるコツについてお伝えしましたが、

1番長く揚げ時間を取るさつま芋を基準にして、他の物を揚げたら、


とても分かりやすいと思います。


海老は半生ぐらいで油から上げて、余熱で火を通して下さい。


それが1番、プリっとしてて海老の甘味を感じます。


そう、さつま芋とは対照的なので、良い比較になります。